ホーム Fuji 職人がドナルド・キーンのためにユニークな仏壇を製作。漆芸家と建築職人が技を結集

職人がドナルド・キーンのためにユニークな仏壇を製作。漆芸家と建築職人が技を結集

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ドナルド・キーン氏が長年暮らした東京・北区のマンションで、キーン氏のユニークな仏壇の横に座るセイキ・キーン氏。(写真は6月29日撮影)

半世紀近くにわたりドナルド・キーン氏が日本での拠点と住居としていた東京都北区のマンションに、六角形の屋根が特徴的な仏壇がある。日本文学の魅力を世界に発信し、2019年に96歳で亡くなったキーン氏への遺品として、漆芸家で人間国宝の室瀬和美さん(73)と数寄屋造り棟梁の木下幹久さん(66)が制作した。

完成までに約3年かかり、今年3月、2人の職人がキーンさんの養子、セイキ・キーンさん(74)に贈呈した。


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左:人間国宝の漆芸家・室瀬和美さんがキーンさんとの心温まる交流の思い出を語る(5月24日撮影)。右:数寄屋造りの棟梁・木下幹久さんがドナルド・キーンさんのために六角屋根のユニークな仏壇を制作した(6月21日撮影)。

「キーンさんの家、死後の家になるように作りました」と木下さんは京都府京田辺市の自宅でのインタビューで語った。「生きている人は住まいを変えることができますが、亡くなった人はそうすることができません。いい加減なことはできないとわかっていました」

約100年前に建てられた木下さんの純日本住宅には、庭に面した茶室があります。木下さんが専門とする数寄屋造りは、日本の茶室をモチーフにした建築様式です。

木下さんは、清輝さんと古くからの知り合いである室瀬さんから、ドナルド・キーンさんのために創造力を発揮してユニークな仏壇を作ってほしいという依頼を受けたという。

木下さんは、生前、室瀬さんを「先生」と呼んでいたキーンさんの食卓を、木下さんが作り、室瀬さんが漆塗りをしたという。キーンさんの死後、木下さんはキーンの位牌も作った。「位牌を作ったので、仏壇も作ってほしいと言われたんです」と木下さんは言う。

「ああ、困惑しました。アイデアが固まるまで2年かかりました。新幹線で移動しているときや寝ているときも、ずっと頭の中で考えていました」と木下さんは言う。キーンは日本文学を世界に紹介した先駆者であり、日本を愛していた。「どんな家に住みたいのだろうと思いました」

木下さんは、キーンさんの墓を訪れた際、墓石にキーンさんが幼少期に可愛がっていた犬をモチーフにした黄色い犬の彫刻があったことを思い出した。それを見て、形式にとらわれてはいけないという強い思いが湧いたという。

ある日、木下さんの頭の中に突然、六角形の屋根を持つ仏壇のイメージが浮かびました。数寄屋造りの技法を活かし、屋根のラインや全体のバランスを考え、シンプルでありながら存在感のある唯一無二の仏壇をイメージしました。そのイメージを室瀬さんに提示したところ、好評を博し、制作がスタートしました。

木下さんは高級な花梨材のみを使い、ドアハンドルは特注品。材料費は精機が負担し、木下さんと室瀬さんは仕事の合間に無報酬で一生懸命に作業した。木下さんが京都で部品を作り、室瀬さんが東京で何度も漆を塗り、部品を組み立てて完成させた。

完成した作品は高さ約125センチ、幅約100センチ。上祭壇と下台座に分かれており、「心からうれしかった」と清輝さんは振り返った。

「晩年に日本人になったキーンさんを、日本の我が家に迎え入れたかったんです」と木下さんは笑顔で語った。

室瀬さんと木下さんの共同作品はまだ完成していない。現在は遺影や線香を置く前台を制作中だ。二人が心血を注いだ祭壇は、2025年秋から26年にかけて東京・世田谷文学館で開催されるドナルド・キーン展に展示される予定だ。

軽井沢で育まれた友情


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上から見た屋根のラインが美しい仏壇

「キーンさんはいつも『室瀬さん、ただいま』と気軽に声をかけてくれました」と室瀬さんは振り返る。室瀬さんとキーンの別荘は長野県軽井沢町にあり、歩いて10分ほどの距離だった。午後の散歩の途中、キーンは清輝さんを連れて室瀬さんの家を訪れることもあった。三味線奏者の清輝さんと室瀬さんは昔からの知り合いだった。清輝さんがキーンさんの養子になったことをきっかけに、室瀬さんとキーンの親交は深まった。

訪問中、キーンは親しみやすい笑顔でいろいろな話をしてくれた。例えば、「江戸時代にポルトガルからパンが日本に伝わり、それから30年も経たないうちに、世界一おいしいパンは江戸で作られたという記事がポルトガルで出た」など。夕食とワインを飲みながら会話は続き、文学的な重苦しいテーマよりも、楽しい日常の話題に及ぶことが多かった。

ある日、室瀬さんは「陶器の飯椀でご飯を食べるのは明治以降の文化で、伝統的には漆塗りの椀を使うのがベスト」と言い、自分で作った漆塗りの木の椀をキーンさんにプレゼントした。キーンさんがそれでご飯を食べると、「おいしい」と大喜びしたという。

室瀬さんは「晩年の短い付き合いではあったが、私にとって心温まる貴重な経験だった」と、キーン氏と過ごした時間を心から感謝している。



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