2024年6月28日 15時18分
たとえ官民投資ファンドが政府の政策として意義を持つとしても、それは財政赤字の膨張が容認されることを意味するものではない。
政府は官民ファンドが巨額の損失を出した原因を検証し、投資手法を見直す必要がある。
海外のインフラ事業への企業投資を支援する国土交通省所管の官民ファンド「海外交通・都市開発事業支援機構」(JOIN)は、2023年度に799億円の損失を出した。
累積赤字は1000億円近くに膨らむ見通しで、投融資総額約2500億円のうち約4割の回収は困難となる。
官民連携の投資ファンドは、政府の成長戦略の一環として2013年以降に数多く設立され、主要なものは10以上ある。
クールジャパン機構は累積赤字が398億円に達し、以前から問題視されてきたが、JOINの赤字はクールジャパン機構の1年間の赤字をはるかに上回っており、はるかに深刻な問題である。
同省は、業務改善策を議論する有識者会議を設置する予定で、投資戦略の問題点などを精査することが期待される。
中国が一帯一路構想で途上国のインフラ整備を推進し、巨大経済圏を創出する中、JOINを通じて日本企業の海外展開を支援するという日本政府の狙いは、それ自体理解できる。
JOINの巨額損失の大きな原因の一つは、米テキサス州での新幹線建設事業だ。JOINは米企業に出資したが、現地の事情などから鉄道事業の先行きは不透明で、417億円の損失を計上せざるを得なかった。
また、ミャンマーでは軍事クーデターの影響で都市開発事業が中断し、179億円の損失が発生した。
官民ファンドは、民間では難しいリスクを政府が引き受け、民間事業を補完する形で資金を運用する仕組みで、大きな利益を上げることよりも、大きな損失を回避することを運用原則としています。
JOINの現状の問題は、1件当たりの投資額が多すぎることが大きい。また、地政学的リスクが過小評価されている面もある。国民の負担を最小限にとどめる方策を講じる必要がある。
テキサス州の計画は今年4月の日米首脳会談で引き続き推進することを確認した。日本の新幹線技術を世界に示すモデル事業にもなる狙いがあるが、投資を回収できる可能性があるのか精査する必要がある。
同省はJOINの巨額損失についてホームページで情報を掲載したが、記者会見などは行っておらず、責任追及もされていない。
国の財政を管轄する財務省はJOINへの監視を強化し、国土交通省にJOINの問題に対処するよう強く求めるべきだ。
(読売新聞2024年6月28日号より)