読売新聞
2024年6月24日 6:00 JST
東京都中央区の築地エリアは、築地市場の跡地の再開発計画で注目を集めている。跡地には築地場外市場があり、海外からの観光客も含め、連日賑わっている。
しかし、築地市場が2018年に現在の江東区豊洲に移転し、新型コロナウイルス感染拡大を受けて場外市場では老舗の店舗や飲食店が相次いで閉店。築地ブランドを守るため、場外市場の関係者は再開発関係者との連携も視野に入れている。
東京都は4月、再開発事業を担う11社連合を選定した。三井不動産や読売新聞ホールディングスも参加する。事業の中心となるのは、約5万人収容の多目的競技場。商業施設やオフィス、ホテルなども入る。築地は海外からの来訪者の受け入れや国際交流、イノベーションの拠点となることが想定されている。2029年に一部開業し、30年代前半に全面開業する予定だ。
外国人観光客の群れ
5月のある土曜日、場外市場は昼食時間で、すれ違う人の肩が触れそうなほど混雑していた。新鮮な魚介類をご飯や玉子焼きと一緒に盛り付けた丼を提供する店には外国人観光客が列をなしていた。若者の多くは食べ物を手に自撮りしていた。
オレゴン州出身の20歳のエリザ・ピーターソンさんは、築地への愛を語り、3日連続で訪れるつもりだと笑顔で話した。彼女は寿司や和牛のサーロイン串焼きなど、さまざまな料理を楽しんだ。ピーターソンさんは、同じ料理が米国では2倍の値段がすることから驚きを隠せなかった。
築地市場は、80年以上にわたり東京の食を支えてきた世界最大級の魚市場として世界的に有名だ。2018年10月に豊洲に移転した後、場外市場はコロナ禍で閑散としていたが、歴史的な円安も追い風となり、再び大勢の外国人観光客が訪れている。
閉鎖に追い込まれた
しかし、場外市場の商店や飲食店でつくる非営利団体の理事長の顔には笑顔はない。
「今の熱狂はいつまでも続かない」と築地食のまちづくり協議会会長の北田好嗣さん(65)は言う。「観光客誘致を考えすぎると築地の魅力が薄れてしまう」
場外市場は、主にプロの料理人を相手に食材や調理器具を販売する小さな店が集まったことから始まった。最盛期には約400店が軒を連ねたが、コロナ禍で約30店が閉店に追い込まれた。
一方、築地の賑わいを商機と捉え、閉店した場所に店を構える外部の業者も増え、地元のマナーを知らない店も増え、屋台で食事をした客が捨てたゴミが地面に散乱するなどの問題も起きている。
築地の会は4月、中央区や有識者の意見を聞いて事業者向けのガイドラインを策定した。新設や改装の際には、周囲に溶け込むデザインや派手すぎる色使い、派手な広告は控えるよう求めている。また、中央区役所に建築や改装を申請する場合は、会の事前承認が必要となる。
「築地地区が特徴を失わないように、このエリアを開発するためのルールを文書化しました」と北田氏は語った。「 お客さまがまた来たいと思っていただける地域にすること。」
休息、くつろぎの場
築地市場の跡地約19ヘクタールに広がる大規模な再開発事業に、場外市場の関係者らが注目している。
都はまちづくり構想が浮上した当初から、築地の食文化を生かす方針を貫いてきた。都の有識者会議が18年にまとめた報告書には「築地のにぎわいの維持・増進」が明記され、再開発事業の公募要領では場外市場との関係に配慮し、相乗効果を生むことを求めている。
これに対し、今年初めに開発事業者に選ばれた三井不動産は、東京都や場外市場と連携し、「江戸前」の食文化を発信する施設にする方針を発表。同社はすでに、伝統的な日本料理を提供するフードホールや、日本の食文化を発信する研究所「フードラボ」を建設する計画を明らかにしている。
三井不動産の担当者は「地元の人に愛され、本物を提供するという基本コンセプトで食のコミュニティをつくりたい」と話す。
同社はすでに地元企業や住民に施設の説明の機会を設け、来場者の混雑緩和に向けた新たな歩道の整備などを検討している。
「まず第一に、築地は伝統的に料理人と目利きの客が自ら買い物に訪れる場所でした」と築地場外市場商店街振興組合の鈴木昭夫会長は言う。「 今後もお客さまとの絆を深め、幅広い年齢層のお客さまがゆっくりとくつろげる場所として再開発を進めてまいります。」
ガイドラインの作成に関わった慶応大学の小林弘人教授は「築地では『食のプロフェッショナルコミュニティ』という理念がきちんと共有されている」と話す。 。」
「再開発により、地区は大きく変わります。理念を守り、議論を大切にしながら、まちづくりを進めていくことが大切です」
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