研究により、日本北東部の東北地方の一部でこれまであまり知られていなかった昆虫食の伝統が明らかになった。この地域ではトンボが珍味としても薬用としても食べられてきた。
岩手県立博物館の主任学芸員、渡辺修司さんは、岩手県と秋田県の一部でトンボがいかにして地元民に古くから食べられてきたかを記した現地報告書をまとめた。
人間の昆虫食、つまり昆虫を食べることを専門とする菅原良平准教授は、渡辺氏の報告を「成虫のトンボを食べるのは珍しいので興味深い」と述べた。
岩手県九戸村で生まれ育った70代の女性は、小学生の頃、友達と何度かトンボを食べたことを思い出す。「トンボは神様だから体にいいと教わった」と話す。
撮影日不明のオオカミトンボの写真。撮影地は不明。(岩手県立博物館主任学芸員・渡辺修司氏提供)(共同)
「放課後、山や川で遊んでいたとき、トンボを捕まえて羽をむしり取って、そのまま食べていました。野生の食用果実であるチョコレートのつるやサワガニも食べていたから、何もおかしくはなかったんです。」
渡辺氏は、トンボは飛行中に手で摘み取られ、その後、羽を抜かれた体を吸って食べられることが多いことを発見した。
秋田県大館市に住む20代の女性は、中学生の頃、トンボを食べた経験について語った。「羽のあたりを持って両脇を引っ張ってトンボの胸を開き、中身を吸い出していました」
味は思い出せなかったが、「(刺身の)チキンテンダーのようだった」と話した。
東北地方の昆虫食に詳しい弘前大学准教授で、青森県出身の菅原氏は「女性は飛翔筋を食べた可能性が高い」と話す。「おやつのように食べたのではないかと思う」
渡辺さんは7、8年前に同僚からトンボを食べる習慣について聞き、2020年から地元の人たちへの聞き取り調査を始めた。その後の3年半で、1950年代から2000年代にかけて、岩手で5件、秋田で1件の事例を見つけた。
渡辺氏の文献調査により、日本各地で古くからトンボが薬として使われていたことが判明。岩手県では、赤トンボを焼いて粉末にし、子どもの咳止め薬として使った記録がある。
トンボの幼虫は食べられていたが、成虫が生で食べられていた形跡はなかったと彼は語った。
東北地方におけるトンボ食の伝統は、日本各地で観察されるオオトンボやオオトンボなどの種が主であったと考えられています。
撮影日不明のオオカミトンボの写真。場所は判明している。(岩手県立博物館主任学芸員渡辺修司氏提供)(共同)
渡辺さんによると、トンボの幼虫はたんぱく質が豊富で、成虫にはカルシウムなどさまざまなミネラルが含まれている。「薬用にも使われていたので、子どもが食べることに抵抗がなかったのでしょう」。
日本では長野県や群馬県ではイナゴ、長野県、愛知県、岐阜県などでは蜂の幼虫を食べる習慣があることは広く知られています。
岩手県でもイナゴが食べられており、「山形県でもさまざまな昆虫が食べられていたと言われています。今では珍しいですが、かつては東北で昆虫食が盛んに行われていました」と菅原さんは言う。
昆虫食は、人口過多などのさまざまな要因によって引き起こされる世界的な食糧不足に対する潜在的な解決策としてよく宣伝されています。
国連食糧農業機関(FAO)は報告書で、世界で食用とされる昆虫のうち、カブトムシなどが31%を占めると指摘。トンボは3%にとどまり、ラオスやパプアニューギニアなどで幼虫が食用とみられる例も紹介している。
「報告書を発表して以来、青森県ではトンボが食用とされ、宮城県南部では薬用に利用されているという情報を得ている」と渡辺氏は言う。「これまで考えられていたよりも広く行われていた可能性があるので、現地調査を続けるつもりだ」
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