ファンがどれだけ映画化を熱望していたとしても、映画化不可能と言われる小説には理由がある。傑作の登場人物の密集や散文のもつれに直面して、映画製作者は往々にしてそれを切り捨てるか、忠実ではあるが観るに堪えない作品を作ってしまうからだ。
インディーズ映画のベテラン、石井岳龍は、安部公房の「映画化不可能」とされた1973年の小説『箱男』に独自のダークコメディのアプローチをとった。その小説の主人公は、汚れた段ボール箱の中で東京中を走り回り、ぼろぼろの日記帳に思いを馳せる。知的で教養があり、半ば気が狂ったヤドカリを想像してみてほしい。
1997年に『箱男』の映画化が失敗に終わった後(資金援助が打ち切られた)、石井監督は数十年にわたってこの企画を棚上げしていた。そしてついに、原作の2人のスター、永瀬正敏と浅野忠信を起用して、稲垣清隆と共同執筆した脚本に基づいて映画を撮影した。この脚本は、小説の哲学的な思索や比喩的な難問を、観客にわかりやすくしつつも、平凡なものにはしていない。