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自民党総裁選にリーダーシップ欠如、岸田氏もライバルも国家ビジョン示せず

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読売新聞
岸田文雄首相は21日、第213回通常国会の会期終了後の記者会見で、自民党総裁選に出馬する意向を表明した。

「次期自民党総裁は誰になりそうか?」

最近、東京・永田町の政界を歩いていると、国会議員やその秘書らからよくこんな質問が聞かれる。国会が6月23日に閉会して以来、日本の政治は今秋の自民党総裁選一色だ。与党自民党の総裁が首相になるのだから、関心が高いのは当然だが、中身のある議論が不足しているように思えるのが気がかりだ。

岸田文雄首相が再選されるにせよ、新総裁が選ばれるにせよ、問われるべきは、どのような政策を、どのように実行すべきかだ。また、一部派閥の政治資金規正法違反を巡る政治不信を解消するために、自民党をどう改革すべきかを示すことも欠かせない。

しかし、自民党議員の多くは、低迷する内閣・党支持率を押し上げ、次期衆院選、来夏の参院選で優位に立てるリーダーは誰かということばかりに関心が向いている。衆院議員の任期は来年10月までだ。

総裁選を勝ち抜いた政権下で、議員生命を懸けた2度の国会選が行われる可能性が高いだけに、やむを得ない面もある。だが、人気投票に終始する恐れもある。ある元閣僚は「ビジョンのないままリーダーの『顔』を変えるだけでは、軽薄さが有権者に見透かされてしまう」と懸念する。

岸田氏は最近、次期衆院選で自民党代表を勝利に導くには誰が最も適した総裁かという議論が飛び交っているのを耳にし、周囲に不満を漏らした。岸田氏の側近は「岸田氏を批判する国会議員は多いが、自分が総理になったらどうするかという提案をする議員はいない」と指摘した。

もちろん、民主主義国家で政策を進めるには国民の支持が不可欠だ。6月29日に就任1000日目を迎えた岸田氏は、懸案の解決に前進をみせた。防衛費の大幅増額や国家安全保障戦略など重要3文書の改定で反撃能力の保有を明記。原発再稼働の推進や新原発建設の検討も表明。内政、外交ともにやるべきことはやったと自負を周囲に語っている。

ではなぜ支持率が上がらないのか。岸田氏は誠意を持って取り組む必要がある。政権に就く前から明らかだった課題を解決する手腕を発揮してきたが、課題が薄いとの批判がつきまとう。また、岸田氏は逃げ腰なのも特徴だ。少子化対策では国民の負担増の議論を避けてきた。支持率アップを狙った定額減税も不評だった。

揺るぎない政治哲学。国民と党を納得させる指導力。日本の将来に対する明確なビジョン。これらが岸田氏に欠けているように思える。

先頭に立って行動するよりも、世論や党内情勢を意識しすぎて場当たり的な政権運営をしてきた感は否めない。かつての売り文句だった「傾聴力」に加え、「説得​​力」も発揮する必要がある。

一方、岸田氏の後継候補として注目されている人たちも、具体的な政策への取り組みに乏しい。茂木敏充氏は幹事長、河野太郎氏、高市早苗氏は現職閣僚だ。いずれも岸田政権を支える立場にあり、首相の政策に正面から反対したわけではない。

自民党元幹事長の石破茂氏は、世論調査で支持率1位となっている。しかし、党関係者の多くは、石破氏は政府や党主流派に反対する立場から率直に発言するため国民に人気があるものの、自身が首相になったら何をしたいのかという点では支持されていないと考えている。

首相になるには、官邸という組織をどう運営していくかという構想力が必要だ。官邸の権力はますます強まっている。そのため、官邸運営や政策実施のスケジュールを細かく設定できる人材を選ぶ必要がある。こうした準備が不十分では、円滑な政権運営は望めない。

日本の繁栄の基盤であった国際秩序が揺らいだ。少子化は歯止めがきかない。財政再建に一刻の猶予もない。避けられない人口減少の中で、豊かで平和な日本を次の世代にどう引き継ぐのか。総裁選の候補者や支援者の間で議論すべき課題は山積している。元自民党幹事長でベテラン政治家の二階俊博氏は先月末、地元の和歌山市で記者団に対し「総裁選の幕が開くのが少し早すぎた」と語った。

この発言は、自民党議員らの総裁選出馬の意向や野望が取り沙汰されている状況に対する辛辣なコメントだった。

総裁選は9月下旬に行われる見通しだ。岸田氏ら対立候補は、まずは時間をかけて政権構想を練るべきだ。総裁選に勝つ方法を考える前に、総裁選に勝つことで何を実現したいのかをはっきりさせる必要がある。党内の駆け引きや人気取りを優先する姿勢は国民に見破られ、さらなる政局の混乱や支持率の低下を招く恐れがある。

Political Pulse は毎週土曜日に掲載されます。




Michitaka Kaiya

貝谷道隆氏は、読売新聞社の記者。




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