ホーム Fuji 日本はサイバー攻撃に対する防御を強化すべき。攻撃的な「ハイブリッド戦争」は増大する脅威とみられる

日本はサイバー攻撃に対する防御を強化すべき。攻撃的な「ハイブリッド戦争」は増大する脅威とみられる

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読売新聞
岸田文雄首相は7日、首相官邸で開かれたアクティブサイバー防衛に関する有識者会議の初会合で演説した。

ある晩、複数の変電所からの電力供給が突然停止し、電力供給制御センターが原因不明のシステム障害に見舞われる。サイバー攻撃によるもので、沖縄本島南部のほぼ全域が停電に見舞われる。

このあり得そうなシナリオは、5月27日に行われた演習のベースとなった。この演習では、自民党の古川禎久元法務大臣を含む与野党の議員らが、台湾の潜在的危機に対する日本の対応を検討した。

「沖縄電力で​​はもう対応できない」

「東京から専門家チームを派遣しなければなりません。」

首相官邸を模した室内ではこうした声が飛び交い、犯人や意図が分からない状況への対応の難しさが浮き彫りになった。内閣官房幹部は「電力供給が止まれば交通や物流が機能不全に陥り、自衛隊や米軍基地の活動にも支障が出る」と危機感をあらわにした。

現代の紛争では、武力攻撃と発電所など重要インフラへのサイバー攻撃を組み合わせた「ハイブリッド戦」が常態化しつつある。政府が2022年12月に改定した国家安全保障戦略で、サイバー攻撃に先制行動できる能動的なサイバー防衛システムの導入を決めたのも、ロシアのウクライナ侵攻が示した脅威が背景にある。

ロシアは2022年2月に物理的な侵攻を開始したが、その1年以上前からウクライナ政府機関や電力・通信施設のシステムに侵入し、破壊工作の準備を進めていたとみられる。侵攻の約1カ月前からサイバー攻撃が激化し、侵攻前日の2月23日には攻撃対象となったシステムが約300に上った。侵攻が始まった2月24日には衛星通信網が混乱した。

日本政府は、中国が台湾への上陸作戦を開始する前に同様の手段を使うとみている。

マイクロソフトは昨年5月、中国の支援を受けるハッカー集団「ボルト・タイフーン」が米国本土と米領グアムの通信・交通施設のシステムへの侵入を企てていると発表した。

日本でサイバー攻撃の標的となる可能性が最も高いのは沖縄だと指摘されている。グアムと同様、沖縄にはインド太平洋地域で最も重要な米軍基地がいくつかある。

沖縄に駐留する米軍や自衛隊は、電気や水道を地元の電力会社に頼っている。沖縄電力の担当者は「サイバー技術は日々進化している。今日は大丈夫でも、明日は何が起こるかわからないので、対応力を強化していく必要がある」と打ち明ける。

水道事業を担う沖縄県水道局は、消毒薬の添加量を管理する「中央監視制御」システムを導入し、警戒を強めている。米フロリダ州の浄水場では2019年に不正アクセスがあり、水酸化ナトリウムの濃度が通常の約100倍に設定された。県の担当者は「システムの更新には細心の注意を払わなければならない」としている。

ボルトタイフーンでは、米国政府が裁判所の許可を得て感染したネットワーク機器を特定し、マルウェアを除去した。日本でも能動的なサイバー防御の体制を構築すれば、攻撃を察知し、予防や無力化の対策を講じることが可能になる。

日本でもサイバー攻撃によるインフラ被害が深刻化している。昨年7月には名古屋港のコンテナ管理システムがウイルスに感染し、コンテナの積み下ろしが停止するなどの被害が発生した。

今年5月にはJR東日本の「モバイルSuica」でも、電子マネーに入金できないトラブルが発生した。同社広報担当者は「異常なアクセスが多数あった」と振り返る。

中国軍は2027年までに台湾の強制制圧を企てる可能性があるともいわれる。日本政府高官は「日本がデジタル化すればするほどサイバー攻撃に脆弱になる。対策強化の時間はあと数年しかない」と強調する。

政府の有識者会議(座長・佐々江賢一郎元駐米大使)は6月から、アクティブ・サイバー防衛の議論を始めた。制度設計の最大の焦点は、憲法で保障された通信の秘密とどう折り合うかだ。サイバー攻撃の兆候を察知するには、平時でも通信事業者の通信情報を分析する必要があるからだ。

通信の秘密の範囲は通信内容だけでなく、通信の日時や送信先など関連情報も広範囲に及ぶ。ただし無制限ではない。今年2月の衆院予算委員会で近藤正治内閣法制局長官は「公共の福祉の観点から、必要かつやむを得ない範囲内で一定の制限を課す場合がある」と答弁している。

政府は、通信の秘密を最大限尊重し、攻撃の検知に役立てながら、積極的なサイバー防御に活用できる通信情報の範囲を限定するため、内閣法制局などと慎重に調整を進めている。

米国、英国、ドイツでは、国家による通信情報の取得は、各国の情報や安全保障上の必要性などを踏まえた法律で規制され、独立した監督機関が権利侵害がないかチェックしている。日本でも、憲法とサイバーセキュリティの両立のため、同様に詳細な法制度が必要だ。

沖縄島の半分が停電になる前に、このようなシステムを早急に設置すべきだ。

Political Pulse は毎週土曜日に掲載されます。




Shuhei Kuromi

黒見周平は読売新聞政治部副編集長。




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