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天安門事件から35年 追悼の機会すら与えられないのか?

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一党独裁体制を維持・強化するため、わずかに残された追悼の機会さえ奪われている。異論を許さない中国共産党の勢力拡大が懸念される。

6月4日は、中国共産党政権が学生らの民主化運動を弾圧し、多数の死傷者を出した天安門事件から35年目の節目だった。共産党は事件を「反革命反乱」と断定し、武力による鎮圧を正当化している。

中国政府はこの事件による死者数を319人と発表しているが、実際の数はそれよりはるかに多いとみられる。

共産党が、被害者の家族などによる真相究明や補償を求める声に全く応えず、徹底した情報統制で事件の再検証につながる動きを封じ込めてきたことは遺憾だ。

中国では事件について知ろうとしても、ネットで検索すらできない。事件自体を知らない若者も増えている。犠牲者の遺族らの高齢化が進む中、中国で事件が風化していくのは必至だ。

懸念されるのは、2012年に発足した中国の習近平国家主席の政権下で、人権や言論の自由をめぐる状況が大きく後退していることだ。

習政権は国家安全保障を最優先課題とし、先端技術を駆使して国民を監視・統制する体制を構築してきた。かつては中国で抗議デモが頻発していたが、現在では抗議デモの情報は当局に事前に把握されており、国民が不満を表明することさえ難しい。

政権としては、党や政府への批判を放置すれば一党独裁体制の崩壊につながりかねないとの危機感があるのか​​もしれない。

これまで追悼集会が許可されていた香港でも、反政府活動を取り締まる国家安全法が施行された2020年以降、追悼活動は事実上禁止されている。

この法律を補完するため、今年3月に国家安全保障条例が施行され、追悼式を企画した民主化団体の元リーダーらが、事件に関する「扇動的」メッセージをソーシャルメディアに投稿するなどの行為を理由に逮捕されたと報じられている。

共産党の統制強化を嫌って中国から人々が流出している。強硬な統治が続けば、社会や経済の閉塞感が増し、中国の長期的な発展を阻害する恐れがある。

事件後、日本は対中制裁を続ける欧米諸国に先駆けて経済支援の再開を表明した。中国の発展が民主化につながると期待したが、結局、日本の見通しは現実と異なると言わざるを得ない。

中国は国内統制を強化する一方で、軍事力を拡充し、東シナ海や南シナ海などで現状変更を試みている。日本は米国や欧州と連携し、中国に国際規範の順守を粘り強く求めていく必要がある。

(読売新聞2024年6月5日号より)



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