ホーム Fuji 伝統的な奈良墨づくりに欠かせない職人技。粘り気のある煤から美しい墨へ

伝統的な奈良墨づくりに欠かせない職人技。粘り気のある煤から美しい墨へ

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読売新聞
成型された墨は灰の上に広げられて乾燥されます。

奈良 — 飛鳥時代(592~710年)に朝鮮半島から日本に伝わった墨は、写経や学問全般に欠かせない。寺社が多い奈良では墨作りが盛んだった。

奈良墨の生産は、室町時代(1336-1573)に奈良の興福寺で始まったと考えられています。

生産には熟練した職人の作業が欠かせません。

特に熟練した職人を必要とする作業の一つが、墨玉(すみだま)を練ることです。墨玉は、動物の皮などから抽出した濃縮液である膠(にかわ)と煤を混ぜて作られます。



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上: 西岡玄道さんは、墨の製造工程の中でも熟練の技を要する「墨玉」をこねている。 底: 西岡玄道は素足で墨玉をこねる。

素足や素手で丁寧に練り、煤と膠の粘度を均一にしないと、美しく上質な墨はできません。

西岡玄道さん(53)は、1902年から続く書道用具メーカー、奈良県呉竹株式会社で墨玉を練る唯一の職人として25年のキャリアを持つ。

「周囲の気温や湿度に合わせて圧力や練り方を変える繊細な作業です。今も毎日試行錯誤しています」と西岡さんは言う。

練りが不十分だと、墨の中に空気が入り込んで、墨が割れてしまう可能性があるという。

練り上げた墨玉を、文様を彫った木型に入れて、数ヶ月乾燥させて完成します。

木型に模様を彫る彫師にも高度な技術が必要で、現在、日本には同社を含めて3人しかいない。


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木型に模様を彫ります。

墨の生産量は減少傾向にあり、1935年の2,265万本から2013年には最盛期の約3%となる70万本にまで落ち込んだ。

奈良墨協会の加盟社数は40社から9社に減少した。書道人口の減少や、手軽に入手できる液体墨の普及などが影響している。

「同じ硯で挽いても、その日の気候や水温で墨の色や粘度が変わる。挽くたびに状態が変わる」と同社代表取締役の吉野誠さん(59)は話す。「そこが墨の魅力。飽きないんです」

液体墨と伝統的な墨を混ぜると、顕著な違いが見られると彼は言う。

一方、墨の売上は同社の総売上のわずか一部を占めるに過ぎない。

「この状況が続けば、墨事業は採算が取れなくなるかもしれない。しかし、何世紀にもわたって受け継がれてきたこの奈良の伝統工芸品の生産を止めるわけにはいかない」と吉野さんは言う。

同社は職人の育成や、より効率的な製造方法の研究も行っている。

同社は近年増加する海外需要に注力しており、2021年から画材用の墨12色の販売を開始した。

「墨は長持ちし、耐久性があり、他の種類の墨よりも個性があります。世界中で墨ほど多く使用されている日本の美術材料はほとんどありません」と彼は語った。

墨には、まだまだ知られていない魅力や用途がたくさんあります。



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