社説
2024年5月25日 16時25分
中国軍は台湾周辺の海域で大規模な軍事演習を実施したが、これはおそらく台湾の新政権に圧力をかけることが目的だ。
しかし、台湾が中国の意向に沿わないという理由だけで、中国が軍事力による脅しを繰り返し行えば、中国の国際的信頼性は損なわれるだろう。
演習には陸海空軍のほか、弾道ミサイルを運用するロケット部隊なども参加。演習場は台湾全土を囲むように設定された。台湾海域を封鎖し、台湾の海上輸送路や米国の支援ルートを遮断して台湾に侵攻するシナリオを想定した演習とみられる。
台湾海峡有事の際、中国が同様の戦術をとってくる可能性もある。日米両国は訓練で中国側が艦艇や戦闘機をどう運用したかを分析し、日本での有事への対応に生かすべきだ。
中国の軍用機と駆逐艦は連携して仮想の軍事目標を攻撃する訓練を行った。多数の軍用機が中国と台湾の境界線となっている台湾海峡の中間線を越えて台湾側に侵入した。
中国軍機による中間線越えは常態化しており、習近平政権はもはや中間線を存在しないものとみなしているようだ。
中国軍報道官は、演習の目的は台湾独立勢力を懲罰し、外部勢力の干渉を厳しく警告することだと主張した。
台湾の頼清徳総統が演説で、日本や米国など民主主義の価値観を共有する国々と協力する意向を示したことに言及しているのかもしれないが、「処罰」という暴力的な言葉を使ったことで、中国の高圧的な態度を全世界に印象づけた。
黎氏の行動次第では、中国軍が今後、弾道ミサイル発射訓練などを実施し、挑発行為をエスカレートさせる可能性もある。
台湾の世論は、台湾と中国の関係の現状維持を支持している。こうした世論を踏まえると、台湾が中国に武力行使の口実を与えないようにすることが、頼氏にとって極めて重要である。
中国軍は今回、台湾が実効支配する金門島や馬祖諸島を演習海域に含めた。これは、離島の制圧が中国軍の作戦の重要な要素となることを示している。
尖閣諸島周辺での中国船による領海侵入も常態化している。離島への部隊配備を進め、自衛隊と海上保安庁の緊密な連携による警戒強化が求められる。
呉江浩駐日中国大使は台湾問題について、「日本が中国分裂の戦車に乗れば、日本国民は火の穴に導かれることになる」と述べた。
日中関係の安定に努めるべき立場にある大使が、日本を脅かすとも受け取られる発言をしたことに日本政府が抗議したのは当然だ。
(読売新聞2024年5月25日号より)
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