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インドの総選挙:不平等、宗教差別が批判を招いている

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インドのナレンドラ・モディ首相率いる与党連合は総選挙で予想外の苦戦を強いられた。選挙結果にみられる批判や不満への対応は国際政治でも大きな関心を集めることになる。

5年ごとに行われる総選挙では、モディ首相率いるインド人民党(BJP)が率いる与党連合が全543議席中290議席以上を獲得し、過半数を確保した。しかし、BJPは前回選挙に比べて議席数を大きく減らし、単独過半数には届かず、一方野党連合は議席数を大幅に増やした。

モディ首相は、インドの有権者が再び同党と与党連合に「絶大な信頼を示した」と述べ、3期目を目指す意向を示した。しかし、事前の予想に反して苦戦の末の勝利は、2期10年続いたモディ政権に対する不満の高まりを反映していることは明らかだ。

背景には、インド経済が成長を続ける一方で所得格差が拡大していることがある。特に若者の就職難は深刻で、2022年の15~29歳の失業率は12.4%と10年前の2倍に上る。

モディ首相は、貧困と失業の問題に取り組み、国民全体の所得を向上させる形でどのように発展を達成するかが試されることになるだろう。

モディ氏は、人口の約8割を占めるヒンズー教徒を優遇する「ヒンズー至上主義」政策を推進し、イスラム教徒など宗教的少数派を抑圧する政策を採ってきた。こうした政策も有権者の批判を招きかねない。

3月に施行された改正国籍法は近隣諸国からの不法移民にインド国籍を付与するが、イスラム教徒は対象外となっている。選挙直前には、政権批判の筆頭だった野党党首が汚職容疑で逮捕された。

モディ首相が自国を「世界最大の民主主義国」と宣言するのであれば、民主主義からの後退と受け取られかねない非寛容な政策を控え、自由や人権といった普遍的価値を尊重すべきだ。

インドは、いわゆる「グローバル・サウス」、すなわち新興国・発展途上国のリーダーとして国際社会における発言力を強め、現実的な外交政策を追求してきた。

インドは国境問題で対立する中国を念頭に、日本、米国、オーストラリアとの安全保障協力の枠組み「クアッド」に加盟する一方、ウクライナへの侵略を続けるロシアとも友好関係を維持している。

日本と米国は、中国の強引な海洋進出を抑止する観点から、「自由で開かれたインド太平洋」の実現を目指し、インドとの協力関係を重視している。

インドが不安定化すれば、地域情勢に悪影響が出るのは必至だ。選挙後の政権が国内の政治改革に取り組むとともに、地域の安定に資する外交政策を推進できるよう、日本はインドを支援する必要がある。

(読売新聞2024年6月6日号より)



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