一見すると、川上弘美の『第三の恋』は、現代の感覚からすれば、よく言っても時代遅れ、悪く言えば略奪的とみなされる「運命の相手」という比喩を使った恋愛小説のように読める。
語り手である40代の東京在住のリコは、2歳になる前に夫の原田成也と出会い、一瞬で恋に落ちたことを語るところから小説を始める。幼少期によちよちと彼の後をついて歩いていたとき（彼は10歳年上で、彼女の愛情を面白がって受け入れていた）、10代の頃に息を切らして家を抜け出して彼に会いに行ったときまで、リコの「なあちゃん」という彼への愛はまさに運命的なものだった。
しかし、川上は物事を決して単純化しない。芥川賞、谷崎賞、読売文学賞など数々の賞を受賞し、型破りで知的な文章で知られる川上は、愛について、テキスト間をまたいだ複雑な考察で読者を挑発する。川上の思索は、どんな恋愛小説よりも、さまざまな観点を提示するソクラテスの対話「饗宴」でプラトンが愛を考察する方法に近い。ただし、川上にとってエロティックな愛は、間違いなくその主要な考察の 1 つである。
